ミクソロジーの世界も人生と同じで、王道は決して廃れることがないように思えます。マルガリータ、コスモポリタン、マイタイ、ダイキリ…世界中のバーテンダーは、これらのような定番カクテルで技術を磨き、創造力を働かせ続けています。オリジナルに忠実であることを選んだとしても、独自のクリエイティブなスタイルに仕上げるにしても、バーテンダーたちはきっと、どこかの時点でコアントローのボトルに手を伸ばすことになるでしょう。定番のカクテルといえば、ディーン・シュリーをご存知でしょうか?
Meet Dean Shury
ミクソロジー・クラシックの170年の歴史
ミクソロジー・クラシックの170年の歴史
ディーン・シュリーはミクソロジーの天才です。ロンドンのシックなホテルレストラン、チルターン・ファイヤーハウスで長年バーテンダーを務めた後、カクテルのノウハウを生かしてパリに渡り、ル・ピガール・ホテルにたどり着きました。シュリーの作るカクテルは、定番に対する21世紀のオマージュ。オリジナルに敬意を払いながらも、現代の味覚を満足させるために少しだけ特別なものを加えた崇高ともいえる再解釈は自慢とするところです。パリで最高のジャズスポットの一角で、バラード歌手のまなざしと軍人のような精巧さで、シュリーはタイムレスで見事なカクテルを生み出しています。
となると、彼に会わないわけにはいきません。そこで私たちは、かつてはパリの歓楽街で現在はカクテルの中心地となっているピガール地区へと向かいました。フロショー通りにある、ピガールの名を冠したホテルは、退廃的な印象のある過去と流行の先端を行く現在が共存する、このエリアを称える象徴です。トレンディかつシックなロビーを隔てた先には、いつも洗練された装いのディーンが準備万端でカクテル「コスモポリタン」を完璧にシェイクしようとしています(そして、いずれは定番となりそうな独自のリフともいえるスタイルも披露してくれます)。
ディーン・シュリーのクラシックカクテル愛
ディーン・シュリーのクラシックカクテル愛
パリのル・ピガールの白い大理石でできたカウンターで、ディーン・シュリーは集中しています。やや控えめながら妥協のない、端整でどこか陰のあるシュリーは、ほどよい伝統、控えめな謙遜、微かに感じられる狂気、魅力的な腕のタトゥーといった、イギリス人らしさを作品に取り入れています。
数回しっかりとシェイクして、最高のマルガリータを仕上げます。おそらくこれは、テラス席に座る自由奔放な画家タイプの人が飲むカクテルなのかもしれません。それとも、ベルベットのソファに座り、ノートPCでメールの送信に忙しい若き起業家がオーダーしたものでしょうか。地方から来た、店の隅でお互いに夢中のカップルが飲むためのものかもしれません。誰が飲むにせよ、ひとつだけ確かなことがあります。シュリーはこのマルガリータを、創造力とオリジナルへのリスペクトのどちらも大切にして作りました。
2つの都市の物語
画像の説明:「アルコール類とフルーツの選択が、美味しいカクテル作りのカギです」と彼は言います。「新鮮な季節の果物やハーブ、風味豊かなビターズ、高品質のフローラルウォーターを手に入れることです。結局のところ、よいカクテルはよい材料次第ですからね」
2つの都市の物語
シュリーの創造力が海を越える前、この30代のバーテンダーはイギリスで最も有名なバーを渡り歩いて技術を磨き、ミリ単位ともいえる精緻な技術を習得しました。ロンドンにあるシックなホテルレストラン、チルターン・ファイヤーハウスで働いていた時、シュリーのドリンクメニューは、王道への敬意を払いながらも、常にちょっとしたアイデアを加えたものでした(ダイキリをティキ風にアレンジしたものなど)。
2017年、シュリーはパリに渡り、ミクソロジーのスキル磨きに最適な場所、ル・ピガール・ホテルを見つけました。そのホテルの洒落たビンテージ調の内装を背景に、彼が考案したカクテルメニューについての話を聞きました。シュリーのカクテルはウィットと上品さを見事に兼ね備えています。
例えば、彼の手で生まれ変わったカクテル、コスモポリタンを見てみましょう。テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のワンシーンで見かけそうなというよりも、ローズウォーターとチェリージュースで色付けした、クラシックで繊細なほんのりとした赤みを再現しています。ガーニッシュはオレンジピールを炎であぶったシンプルなもの。グラスに注いだカクテルに柑橘系のオイルを少量振りかけます。コアントローのオリジナルには欠かせないショットを思い出させます。はい、完成です。このコスモポリタンは「ル・コズミック」と名付けられ、この秋、ル・ピガールのカクテルメニュー入りを果たしました。シュリーの秘密? 新鮮な材料を選ぶこと。
バーテンダーは皆、コアントローのボトルを常備している
ディーン・シュリー
クラシックのリミックス
クラシックのリミックス
シュリーのカクテルの背後にあるインスピレーションは、クラシックカクテル(コスモポリタン、マルガリータ、サイドカー、ホワイトレディ)の定番要素を、よりオリジナルな作品と織り交ぜることにあると言っていいでしょう。当然のことながら、彼はコアントローをよく使います。「バーテンダーは皆、コアントローのボトルを常備していますよ」とシュリーは言います。「王道であり、なくてはならないものですね。難しいのは、このような伝統的な材料をどのように使えば、レシピのよさを最大限に引き出せるかを理解することです」
定番のカクテルをうまくアレンジするには、時間と努力の積み重ねも大切です。結局のところ、あらゆる意味ですでに完成されたドリンクを、さらに美味しくしようとしているわけですから。「友人に聞けばわかりますが、私もこれまでひどい失敗作をいくつも作ってきました。フレーバーが多すぎて迷ってしまったら、定番のレシピに立ち返ってインスピレーションを得るようにしています。例えば、私の作るコズミックの場合、コアントローのシトラスとビターを中心に、目新しいフルーツとフローラルのフレーバーを強く感じるように仕上げています。
シェーカーやストレーナー、タンブラーを優雅に操るシュリーの仕事を見ていると、基本を極めることと、バランスのとれたフレーバーを見極めるシェフの勘を融合した、ミクソロジーの本質が理解できます。パリに夜が訪れ、ピガール広場の街灯が次々とライトアップされていく中、シュリーはスーツケースを手にしました。今の住まいのバルセロナに戻る飛行機の時間が近づいています。彼は最近、自身で経営するカクテルバーをオープンしたばかり。そこはスペインの生命力、パリのクールな雰囲気、そしてイギリスの精緻さがミックスされた店です。そのメニューにはミクソロジーの古典的カクテルと、それを見事にアレンジしたシュリーの現代版カクテルがあり、そのどちらにもカクテルに対する敬意の念が込められているに違いありません。