「空のシェーカー」症候群をご存じですか?作家がスランプで書けなくなる状態のミクソロジスト版ともいえる症状で、オリジナルのカクテルを作りたい衝動に駆られながらも、どこから手を付けたらいいのか分からなくなることです。幸い、創造力は強化できる能力― 必要とされるのは、定期的なインスピレーションの補充と、わずかな狂気だけです。 試行錯誤を重ねてできたドリンクの中には、時代が変わっても廃れないものがあります。コスモポリタン、マルガリータ、ホワイトレディはご存知でしょう。でも時には、王道ではなくクリエイティブな回り道をしたい気分になることもあるでしょう。ホットコアントローサイダーやラベンダーとカカオのブレンドなども気になりますね。とはいえ、カクテル作りで創造力を発揮するには具体的にどうすればいいのでしょうか? 偶然にも、大胆で想像力豊かなドリンクを生み出すことを専門とするバーテンダーをご紹介します。
Meet Aurelie Panhelleux
海をイメージしたパリのバー、「コッパーベイ」のオーレリー・パネールは、才能あふれるパートナー、エルフィ・ファブリティウスとジュリアン・ロペスの二人とともに、同世代のバーテンダーの中でクリエイティブな才能の持ち主の一人と言って良いでしょう。ブルターニュ出身の彼女がキャリアをスタートさせたのは、カクテルではなく料理の世界でした。パリの高級レストランで働き始めた彼女は、複雑な料理の技術を習得しながら、一風変わった味覚のペアリングに関心を強めていきました。外向的でフレンドリーな性格からバーテンダーの世界に引き込まれた彼女は、「飲む料理」と呼ぶこともできそうな、料理とミクソロジーの融合を目指したのです。ドリンクの材料を作ったり調達したりする際には、アンフュージョンから真空調理まで、料理学校時代に学んだ技術を活かして楽しんでいます。
コッパーベイのメニューには、羊のミルク、タバコの葉、エビの粉末の文字が。これらは材料のほんの一部にすぎません。「クレイジー!」でしょうか?そうかもしれません。しかし、オーレリーのミキシング哲学の大半は、単純に「楽しむ」ことなのです。彼女のカクテルはどれも、グルメなコース料理のように楽しむことを考えて作られています。そして、それぞれの作品は、良い意味で忘れられないものです。
パリ10区の賑やかで多文化なポルト・サン・マルタンの一角にある、風通しのよい地中海スタイルの酒場に招待された私たちは、そこで働くオーレリー・パネールからクリエイティブなカクテル作りのコツを教えてもらいました。
カッパーベイのバーテンダートリオが生み出した、最新の創作カクテルとは? マルガリータにアルプス越えレベルのツイストを加えたものです。語呂良くマルゲリータと名付けられたこのカクテルは、オリーブとケッパーをトッピングしたナポリタン・ピザをイメージしたもので、オーレリーお手製のサンドライトマトのコアントロー漬けが添えられています。創造力とカクテルは、いつでも素晴らしい組み合わせです。
創造性のレシピ
創造性のレシピ
カウンターでは、オーレリー・パネールが膨大なお酒のコレクションを使った実験に追われています。今やカルト的となったこのバーで、最新のクラフトカクテルのレシピに取り組んでいます。一見穏やかに見えても、海が好きなブルターニュ出身のパリっ子の頭の中ではアイデアが渦巻いています。コッパーベイのドリンクメニューをひと目見ただけで、ここのカクテルはクリエイティブを一途に追求したものであり、何を注文しても他とは違うグルメな体験になることがわかります。アナイス・ニンの影響を受けたタトゥーが示唆するように、パネールは、新しいカクテルになるようなアイデアの数々を発掘するため、彼女自身の創造力を掘り下げることにすべてを捧げています。そのために、ありとあらゆる感覚を取り入れます。パリ・ファッション・ウィークでの服のトレンド、パン屋から漂う香り、パントンのカラー・オブ・ザ・イヤー、ギリシャの海辺のレストランで発見した味…。フランスのベストバーテンダー50に選出されたパネールにとって、すべてがインスピレーションの源となりうるものなのです。
2014年、オーレリー・パネールと二人のビジネスパートナー、ジュリアン・ロペスとエルフィ・ファブリティウスは、パリの中でも繁栄するポルト・サン・マルタン地区の中心に店を構えました。三人は、比較的落ち着きのあるブシャルドン通りの中ほどに、バーと言うよりフラッグシップと呼ぶにふさわしい店をオープン、創造力と陽気さがあふれる場を目指しました。そして、思っていた通りの店に成長しました。コッパーベイは、5年足らずでパリの「クラフトカクテル巡礼」に欠かせない場所となりましたが、その理由は一目瞭然です。明るい海辺の雰囲気、真鍮と木材を使った心地よいインテリア、そしてイマジネーションに満ちたメニューは、世界中のカクテル愛好家を魅了し、太陽、サーフィン、パスティスを欲したときにはいつでも立ち寄ることのできる場所です。
カクテルに対するシェフのアプローチ
カクテルに対するシェフのアプローチ
カッパーベイのカクテルの名前からは、三人のオーナーの料理愛が感じられます。ザジキ、タヒニサワー、ディープシーサワー…。私たちが会った日に彼女が取り組んでいたのは、マルゲリータピザをイメージしたカクテルでした。修業を積んだ料理人であるパネールにとって、ミクソロジーは一種の「飲む料理」なのです。彼女のカクテルに対するシェフスタイルのアプローチは、パリで最も豪華なレストランやホテルで働いていた経験から生まれるものです。「私は料理人の家系なのよ」と彼女は言います。「だから親と同じ道を選んだの」。ソース、季節性、真空調理などはすべて、パネールがミクソロジーに使う言葉の一部となっており、バーテンディングの仕事でもフードやペストリーのテクニックを頻繁に取り入れています。クラフトカクテルの創造的な世界でも、彼女の生み出すドリンク類にはそれぞれの驚きがあります。彼女の味の哲学は、「なぜそうしないの?」という問いが中心となっています。羊のミルク、エビの粉末、フェタなど、オーレリーの作るドリンクには意外な食材がよく登場します。
「固形の料理」と「液体の料理」はより近づき、より素晴らしくなっていく
古典的なマルガリータのレシピを起点に、オーレリー、エルフィ、ジュリアンの三人は完璧なレシピに到達するまでブレーンストーミング、テスト、味見を繰り返し、最終的に洗礼を受けた「マルゲリータ」のレシピとなるのです(※バーの裏メニューのひとつですので、試してみたい方は声をかけてください)。作り手の「飲む料理」的な創造力が見事に発揮された例と言えます。粉末オリーブ、ケッパーの液体、サンドライトマトを漬け込んだコアントロー…パネールはどこからこのようなアイデアを得るのでしょうか? 旅の経験から? その通りですが、それだけではありません。オーレリー・パネールにとっての創造力とは、外国の文化と自分の内面の両方を探求することです。
探検+出会い=クリエイティブなレシピ
「旅は私にとって不可欠です。それなしでは、息が詰まってしまうでしょう」-オーレリー・パネール
探検+出会い=クリエイティブなレシピ
海沿いの街育ちの彼女は、少女時代を過ごしたブルターニュの川や、マルセイユをたびたび訪れます。マルセイユには、2018年にオープンしたチームの「2番目の港」ともいえる「コッパーベイ マルセイユ」があります。
このような旅は、ブルターニュ産ウイスキーを使用した「マルド・オールドファッションド」や、コイントロー・フィズのアレンジなど、新しいカクテルを創作するために不可欠なのです。
しかし、パネールが本当にクリエイティビティを養っているのは、遠く離れた地への旅です。
「旅は私にとって不可欠です。それなしでは、息が詰まってしまうでしょう」
既成概念にとらわれることのない彼女は、しばしば一人で旅行し、その地の文化や伝統に浸ります。メキシコからギリシャ、中東に至るまで、全世界が彼女のインスピレーションの源であり、新しい息吹となります。
「今、私はオスロに行って "Himkok Bar"を訪れることを夢見ています。彼らのバーはとても魅力的で、私はぜひ深く知りたいと思っています」
オーレリーにとって、新しい人と出会うことは、彼女自身の人生と仕事を視野に入れるのに役立ちます。
世界的なカクテルコンペティションのスポットライトや、目まぐるしい日常から離れ、一人旅で癒しと孤独の時間を味わいます。
コッパーベイの閉店後には、一人で街を散策します。通りのレストランから届く音や匂い、古い建物の色と質感、様々な感覚的なインスピレーションを得て、帰宅後にムードボードを仕上げるのです。
彼女のスマートフォンには、ファッションショーの画像、色彩見本のスクリーンショット、そして大好きな家具でいっぱいです。
「私の画像コレクションはどんどん増えています!特に布地の動きや興味深い色、木の質感などを捉えています」。
ひとりの「インスピレーション集め」の時間は、創造的なエネルギーに不可欠であり、バーテンダーとしてのステップアップにも大切なのです。
彼女はまた、仕事仲間たちや同業者の活躍にも注目しています。
特にイベントプロデュース会社 "Quixotic Projects"のカリーナ・ソト・ベラスケスやロンドンの「ミント・ガン・クラブ」のチームにも触発されています。
カクテルの文化:情熱の共有
カクテルの文化:情熱の共有
他の人とカクテルへの愛を共有することは、コッパーベイのチームにとって不可欠です。
「バーテンダーの人間的側面が重要です」
バーの創設者3人全員が明るく社交的で、自分たちの店が社会的なつながりの場所となることを望んでいました。 彼らは自分たちの仕事をバーテンダーとして、カクテルの文化をより多くの人々と共有する機会と考えています。
「偉大な革命はすべてバーで始まるのです」
優れたスキルを発揮し、コアントローのようなモダンークラシックな素材を活用することはバーテンダーの基本ですが、パネールは、仲間であるミクソロジストにではなく、お客様に驚きや喜びを与えることに重点を置いています。
彼女はバーテンディングのアプローチを一言で定義します―ホスピタリティ、と。
チームは、バーテンダーとしての仕事愛に忠実に、印象的な味わいを優先し、過度に複雑なレシピを避けています。
「自分の仕事に情熱を注ぎたいのであれば、お客様に自分の仕事を理解していただく必要があります」。
彼女はときに時間をかけて、自分のクリエイティブなプロセスと材料の選び方を顧客に説明します。
バーはバーテンダーの仕事がよく見るように設計されていますので、バーテンダーの動きを観察し、材料を確認してみてください。当然のことながら、パネールの笑顔と軽快なジェスチャーは、カウンターに座っているゲストに、より興味を持たせ、驚き、喜びを運んでいます。
「では、私たちがマルガリータについてどう考えているでしょう?」とカクテルとともに彼らに尋ねます。
ゲストたちは目を閉じて味わい、あるいは喜びに目を見開き、うんうんと頷いて、質問が始まります。「すごい、どうやって作るの?」、「一体どうやってこれを思いついたの!?」、「これはピザと一緒に楽しむべきだよね?」
バーテンダー、コミュニティメーカー、"リキッド・ガストロノミー"のクリエイター。これらはオーレリー・パネールの3つの顔です。私たちコアントローチームは、いつでも喜んでコッパーベイの船に乗り込むでしょう。